こんにちは!スミスです。
「これからはEVの時代」「脱炭素のためにはEVしかない」といった声が日々報道される中で、世界最大級の自動車メーカーであるトヨタ自動車がEV一本化を急いでいない姿勢に、違和感や疑問を覚える方も多いのではないでしょうか。SNSやニュースサイトでは「トヨタはEVで出遅れている」「時代遅れだ」といった批判的な意見も目にします。
結論から申し上げますと、トヨタはEVを否定しているわけでは決してありません。むしろ2026年に向けて次世代EVの開発を着実に進めています。トヨタが採用しているのは、世界の多様な市場環境と技術リスクを踏まえ、あえて選択肢を広く残す「マルチパスウェイ戦略」と呼ばれるアプローチです。
この記事では、トヨタがなぜEV一本化を急がないのか、その戦略の考え方と2026年に向けた具体的な取り組みを、ニュースの断片ではなく全体像として整理してお伝えします。企業戦略やニュースを冷静に読み解く視点を持つことで、自動車業界の動向がより深く理解できるようになるはずです。
EV一本化が「正解」とは限らない理由
EV普及には地域差が大きい
一般的に、EVは脱炭素の切り札として大きな注目を集めています。確かに走行時にCO2を排出しないという点で、環境に優しい技術であることは間違いありません。しかし、EVが世界中のあらゆる地域で同じように普及するかというと、現実はそう単純ではありません。
私が強く感じるのは、EV普及にはいくつかの重要な前提条件があるという点です。例えば、充電インフラの整備状況、電力供給の安定性と発電方法、車両価格の高さ、気候条件などが挙げられます。これらの条件は国や地域によって大きく異なります。
北欧やカリフォルニアのように再生可能エネルギーが豊富で、充電インフラが整備された地域では、EVは理想的な選択肢となります。一方で、電力供給が不安定な新興国や、極寒・酷暑の地域では、EVの利便性は大きく低下します。また、長距離移動が日常的な地域では、航続距離や充電時間の問題が深刻です。
充電インフラと電力供給の課題
EV普及の大きな障壁となっているのが、充電インフラの整備です。ガソリンスタンドは数分で給油が完了しますが、EVの充電には現在でも数十分を要します。日本国内でも、高速道路のサービスエリアで充電待ちの列ができることが報じられており、これは日常的な不便さとして認識されています。
さらに重要なのは、電力供給の問題です。EVが増えれば当然、電力需要も増加します。その電力がどのように発電されているかによって、本当の意味での環境負荷は大きく変わってきます。石炭火力発電が主力の国でEVを充電すれば、トータルでのCO2排出量はハイブリッド車と大差ない、あるいは場合によっては上回る可能性さえあります。
このような現実を考えると、「世界中で一律にEVに切り替える」という発想自体が、かなり乱暴な議論だと私は考えています。
グローバルメーカーが抱えるリスク
トヨタは世界170以上の国と地域で車を販売するグローバルメーカーです。このような企業にとって、特定の技術だけに賭けすぎることは大きなリスクになります。
仮にEV一本化を急いだ場合、インフラが整っていない地域では車が売れなくなります。また、各国の環境規制や電力事情の変化に柔軟に対応できなくなる恐れもあります。トヨタが慎重な姿勢を取っているのは、「技術に遅れている」からではなく、グローバル企業としての責任を果たすためだと私は理解しています。
実際、トヨタのような巨大企業が方針転換を誤れば、影響を受けるのは従業員だけでなく、世界中のサプライチェーンに関わる何百万人もの人々です。慎重さは、むしろ経営者としての賢明な判断だと言えるでしょう。
トヨタが重視する「マルチパスウェイ戦略」とは
マルチパスウェイの基本的な考え方
トヨタが掲げているのが、「マルチパスウェイ」という考え方です。これは直訳すると「多様な道筋」を意味し、カーボンニュートラル実現のための手段はEV一つではないという戦略です。webCGの記事によれば「BEVに加えて燃料電池車(FCEV)、エンジン車、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、水素エンジン車など、あらゆる手段=複数の小道を使うのが、総合的なCO2排出を減らしてカーボンニュートラル化に向かう本当の意味での早道」(トヨタが掲げる「マルチパスウェイ」ってなに? その意味と特徴、強みを知る – webCG)という考え方だと説明されています。
この戦略の核心は、一つの技術に依存しないことで、環境規制や市場変化に柔軟に対応できる点にあります。私はこれを「技術のポートフォリオ経営」と理解しています。投資の世界で分散投資がリスクヘッジになるのと同じように、技術も分散することで企業としての持続可能性を高めているのです。
複数の技術を並行して進める意味
マルチパスウェイ戦略では、以下のような多様な技術を並行して開発しています。
- ハイブリッド車(HEV):ガソリンと電気モーターを併用し、充電不要でCO2削減に貢献
- プラグインハイブリッド車(PHEV):外部充電も可能で、日常的な短距離移動はEVとして利用できる
- 電気自動車(EV/BEV):バッテリーのみで走行し、走行時のCO2排出ゼロ
- 燃料電池車(FCEV):水素を燃料とし、長距離走行と短時間充填を両立
- 水素エンジン車:既存のエンジン技術を活かしながら水素を燃料として使用
それぞれの技術には長所と短所があります。例えば、ハイブリッド車は充電インフラが不要で、今すぐCO2削減に貢献できます。EVは走行時の排出ゼロですが、充電時間と航続距離に課題があります。燃料電池車は長距離走行に優れていますが、水素ステーションの整備が必要です。
トヨタは各地域の事情に合わせて、これらの技術を使い分けることで、最大限のCO2削減を実現しようとしているのです。これは「全方位戦略」とも呼ばれ、特定の市場や規制に過度に依存しないメリットがあります。
実際の販売実績が示すもの
トヨタのマルチパスウェイ戦略が正しかったことは、実際の販売実績が証明しています。日経クロステックの記事によれば「2024年度第1四半期(2024年4~6月)の時点では、新車販売に占めるHEVの割合が40.0%に達した」(トヨタがEVの「基準」を下方修正、実需に見合わぬ戦略はリスク大 | 日経クロステック(xTECH))とのことです。
これは驚くべき数字です。トヨタの新車の4割がすでにハイブリッド車なのです。つまり、トヨタは既に大規模な電動化を実現していると言えます。ただし、それがEVという形ではなく、ハイブリッドという形で進んでいるということです。
私が重要だと感じるのは、ハイブリッド車は今すぐ購入でき、充電インフラも不要で、確実にCO2削減に貢献しているという点です。「将来のEV社会を待つ」のではなく、「今できることを着実に実行する」というのがトヨタのアプローチだと理解しています。
他社EV戦略との比較から見える違い
テスラのEV専業戦略
トヨタの戦略を理解するには、他社との比較が有効です。EV専業メーカーの代表格であるテスラは、EVに特化することで急成長を遂げました。2023年には年間販売台数が180万台を超え、EV市場でのプレゼンスを確立しました。
テスラの強みは、EVという一つの分野に経営資源を集中投下したことです。これにより、バッテリー技術、自動運転技術、充電ネットワークなどで先行することができました。スタートアップ企業として、限られた資源を効率的に使う戦略としては非常に合理的でした。
しかし、日経クロステックの記事によれば「2024年に1.1%減の約179万台と、わずかながら減少に転じた」(日経クロステック(xTECH))とのことです。EV市場の成長鈍化が、EV専業メーカーの成長にも影響を与え始めているのです。
欧州メーカーの方針転換
興味深いのは、欧州メーカーの動向です。webCGの記事によれば「2035年までの内燃機関販売禁止を掲げていた欧州連合も、(カーボンニュートラル燃料にかぎって)内燃機関の販売を2035年以降も認める方針に転換したり、合わせて欧米メーカーのいくつかが、BEV化のスピードを緩めたりする動きを見せている」(webCG)とされています。
これは非常に示唆的です。かつて「EVこそ唯一の解」として急進的な政策を進めていた欧州が、方針を修正し始めているのです。その背景には、EV普及の現実的な課題が明らかになってきたことがあります。
欧州メーカーがEV一本化を進めた背景には、実は技術的な理由もあったと言われています。トヨタのハイブリッド技術に対抗できなかったため、ルールそのものを変えようとした側面があるのです。しかし、実際にEV市場が立ち上がると、中国のBYDなど低コストメーカーに市場を奪われる結果となりました。
企業規模による最適解の違い
ここで重要なのは、どちらが正解というわけではなく、企業の規模や立ち位置によって最適解が異なるという点です。
テスラのようなスタートアップは、EVという新しい市場に集中することで急成長を実現できました。一方、トヨタのような既存の大手メーカーは、世界中の多様な市場に対応し、既存のサプライチェーンや雇用を守る責任もあります。
私の考えでは、トヨタは「段階的にEV比率を高める」というアプローチを取っているのであって、EVを否定しているわけではありません。むしろ、収益性を確保しながら技術開発を進め、本当に競争力のあるEVを市場に投入するための準備期間と捉えるべきでしょう。
短期的な市場の声に振り回されず、長期的な視点で戦略を立てる。これこそが、100年企業であるトヨタの強みだと私は感じています。
2026年を見据えたトヨタの具体的な取り組み
次世代EV戦略の全体像
「トヨタはEVで出遅れている」という批判をよく耳にしますが、実際には2026年に向けて着実にEV戦略を進めています。
日経クロステックの記事によれば「トヨタは2026年までにEVの新モデルを10車種投入し、年間販売台数を150万台まで増やす計画」(日経クロステック(xTECH))としていました。ただし、その後市場環境の変化を受けて、この基準は柔軟に見直されています。2025年2月時点では「2026年のEVの基準を年間100万台としていたものを、80万台に下げた」(日経クロステック(xTECH))と報じられています。
この数字の修正について、私は二つの点で評価しています。第一に、市場の実需を見ながら柔軟に計画を見直す姿勢です。無理な目標を掲げて達成できないよりも、現実的な目標を設定して確実に達成する方が、経営として健全です。第二に、それでも80万台という数字は決して小さくないという点です。これは日産自動車のEV販売目標に匹敵する規模であり、トヨタが真剣にEV市場に取り組んでいることの証左です。
革新的な電池技術の開発
トヨタの2026年戦略で特に注目すべきは、次世代電池の開発です。トヨタ公式サイトによれば「2026年に導入される次世代BEVでは、航続距離1,000kmを実現。その車両への搭載を目指し、性能にこだわった角形電池を開発中」「電池のエネルギー密度を高めながら、空力や軽量化などの車両効率向上により航続距離を伸ばし、同時に、コストは現行bZ4X比で20%減、急速充電20分以下(SOC=10-80%)を目指す」(電動化技術 – バッテリーEV革新技術 | コーポレート | グローバルニュースルーム | トヨタ自動車株式会社 公式企業サイト)とされています。
これは画期的な進展です。航続距離1,000km、コスト20%削減、急速充電20分以下という目標は、現在EVが抱える主要な課題をすべて解決する可能性を秘めています。
さらに、トヨタは2027~2028年には「全固体電池」搭載EVの実用化を目指していると報じられています。全固体電池は、現在の液体電解質を使うリチウムイオン電池に比べて、安全性が高く、充電時間が短く、エネルギー密度が高いという特徴があります。この技術が実用化されれば、EV市場の勢力図が一変する可能性があります。
私が注目しているのは、トヨタが「早く市場に出す」ことよりも「本当に競争力のある製品を出す」ことを優先している点です。これは長期的には正しい戦略だと考えています。
収益性と持続可能性のバランス
トヨタの戦略で見落とされがちなのが、収益性と持続可能性のバランスです。EVは現時点では製造コストが高く、多くのメーカーが赤字で販売しているのが実情です。
トヨタは急激なEVシフトではなく、ハイブリッド車で収益を確保しながら、その利益をEV開発に再投資するという堅実な経営を行っています。これにより、無理な投資で経営が傾くリスクを避けながら、長期的な技術開発を継続できるのです。
また、トヨタはEVを「重要な柱の一つ」として育てる段階と位置づけているように見えます。つまり、EVはカーボンニュートラル実現のための手段の一つであって、唯一の答えではないという姿勢です。この考え方は、webCGの記事で紹介されているように「敵は炭素(カーボン)、内燃機関ではない」(webCG)という豊田章男会長の発言に象徴されています。
私はこの姿勢を高く評価しています。目的は「環境負荷の低減」であって、「EVを売ること」ではありません。その目的を達成するための最適な手段を、地域ごとに選択するというのが、トヨタのマルチパスウェイ戦略の本質だと理解しています。
まとめ:自動車ニュースを読み解く新しい視点
ここまで、トヨタがなぜEV一本化を急がないのか、その戦略的な背景と2026年に向けた具体的な取り組みを見てきました。最後に要点をまとめます。
- EV普及には地域差が大きく、充電インフラや電力供給の課題があるため、世界中で一律にEVに切り替えることは現実的ではありません。
- トヨタのマルチパスウェイ戦略は、ハイブリッド、プラグインハイブリッド、EV、燃料電池車など、多様な技術を並行して開発することで、市場変化に柔軟に対応する戦略です。
- 実際、トヨタの新車販売の40%はすでにハイブリッド車であり、大規模な電動化を実現しています。
- 欧州メーカーもEV一本化から方針を転換し始めており、トヨタの全方位戦略の妥当性が証明されつつあります。
- 2026年に向けて、トヨタは航続距離1,000km、コスト20%削減という革新的な次世代EVを投入予定です。
- 収益性を確保しながら技術開発を進めるという堅実な経営により、長期的な競争力を維持しています。
トヨタがEV一本化を急がないのは、技術に慎重だからではなく、世界全体を見た現実的な経営判断だと私は考えています。「EVか否か」という二元論ではなく、各地域の事情に合わせて最適な技術を提供するという姿勢は、グローバル企業としての責任の表れでもあります。
今後、自動車ニュースを読む際には、「EVか否か」という単純な視点ではなく、「各メーカーがどの市場で、どの技術をどう使い分けるのか」という視点で見ると、理解が一段深まります。また、販売台数だけでなく、実際のCO2削減量や収益性といった指標にも注目することをお勧めします。
まずは今日から、EV関連の報道を読む際に、数字や地域差を意識しながら読む習慣をつけてみてください。「この記事が想定している市場はどこか」「インフラ整備の状況はどうか」「発電方法は何か」といった点を考えるだけで、ニュースの見え方が大きく変わるはずです。
自動車業界は100年に一度の大変革期にあります。その変化を冷静に、そして多角的に理解することで、投資判断や就職・転職の意思決定にも活かせるはずです。
参考記事リンク
- トヨタ自動車 公式ニュースリリース
- トヨタ自動車 バッテリーEV革新技術
- トヨタの戦略、”しがらみ”断って2026年に次世代EV(日経クロステック)
- トヨタが掲げる「マルチパスウェイ」ってなに?その意味と特徴、強みを知る(webCG)
※本記事の情報は2025年2月9日時点のものです。最新情報については公式サイト等でご確認ください。
