こんにちは!シーガーです。
2025年1〜6月期、欧州自動車業界に激震が走りました。世界第4位の自動車メーカー・ステランティスが23億ユーロ(約3960億円)という巨額の赤字を計上したのです。前年同期は56億ユーロの黒字でしたから、その転落ぶりは想像を絶します。この劇的な変化の背景には、トランプ政権が導入した関税があります。北米市場での苦戦、工場の操業停止、売上高の大幅減少(13%減)―。今回の記事では、この衝撃的な決算結果がもたらす自動車業界への影響と、今後の展望について詳しく解説いたします。
ステランティス赤字転落の全貌
史上最大級の業績悪化を記録
2025年1〜6月期の純損益が23億ユーロ(約3960億円)の赤字になるとの暫定的な見通しを発表したステランティス。この数字は、自動車業界における近年最大級の業績悪化の一つと言えるでしょう。
前年同期と比較すると、その落差の激しさが浮き彫りになります。
- 2024年1〜6月期:56億ユーロの黒字
- 2025年1〜6月期:23億ユーロの赤字
- 差額:実に79億ユーロ(約1兆3600億円)の悪化
売上高も大幅減少の深刻な状況
1〜6月期の売上高は13%減の743億ユーロを見込むというデータが示すように、収益性の悪化だけでなく、事業規模そのものの縮小が顕著に現れています。この13%という減少率は、同社の北米事業における構造的な問題の深刻さを物語っています。
💡 ポイント解説
ステランティスは、フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)とプジョー・シトロエン・グループ(PSA)が2021年に合併して誕生した巨大自動車メーカーです。ジープ、ラム、クライスラー、プジョー、シトロエン、オペルなど14のブランドを傘下に持つ世界第4位の自動車グループです。
経営陣の刷新と新体制への期待
業績悪化の責任を取る形で、前CEOカルロス・タバレスが12月に辞任。新CEOフィロサは5月に就任し、新体制での立て直しを図っています。新CEOアントニオ・フィローサ氏は、元BMW幹部としての経験を活かし、特に北米市場での競争力回復に向けた戦略を打ち出すことが期待されています。
トランプ関税政策による直接的打撃
25%関税の即座なインパクト
米国の輸入車への25%関税が3日午前0時に発効したことで、ステランティスは即座に対応を迫られました。この関税政策は、カナダやメキシコで生産された車両を米国市場に輸出する際のコスト構造を根本的に変えてしまったのです。
トランプ政権の関税政策の特徴
- 基本関税:全輸入品に一律10%
- 自動車関税:25%の追加関税
- 対象範囲:完成車および自動車部品
- 適用根拠:安全保障を理由とする通商拡大法232条
工場操業停止という苦渋の決断
カナダとメキシコにある一部の工場で生産を一時停止し、米国の従業員900人を一時解雇という事態に追い込まれたステランティス。
- カナダ・オンタリオ州工場:7日から2週間の操業停止
- メキシコ・トルカ工場:7日から今月末まで閉鎖
- 影響従業員数:米国で900人の一時解雇
⚠️ 重要な影響
この工場停止は、単純な生産調整ではありません。関税により製造コストが大幅に上昇し、価格競争力を失った製品の生産を継続することが経済的に困難になったための措置です。特に、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)下での自由貿易の恩恵を受けてきた北米一体型の生産体制が、関税により大きく揺らいでいます。
規制変更による追加的な財務負担
トランプ政権下で6月に改定された企業平均燃費基準(CAFE)の罰金撤廃により、ステランティスが保有していたクリーンエアクレジットの価値が減少し、追加の損失を計上したことも、業績悪化を加速させました。
CAFE規制変更の影響
- クリーンエアクレジット(排出権)の価値減少
- ガソリン車・ディーゼル車生産の規制緩和
- 短期的な財務負担の増加
- 長期的な電動化戦略の見直し圧力
業界全体への波及効果と競合他社の状況
自動車業界に広がる関税ショック
ステランティスの苦境は、決して同社だけの問題ではありません。関税の賦課は当の米国経済に最も大きな負の影響をもたらすが、輸出国側にも負の影響が及ぶという経済原理通り、自動車業界全体が深刻な影響を受けています。
各国の報復措置とエスカレートする貿易戦争
カナダのカーニー首相は同日、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に準拠していない米国からカナダに輸入される自動車に25%の報復関税を課すと発表するなど、報復関税の連鎖が始まっています。
報復関税の現状
- カナダ:米国車に25%の報復関税(自動車部品は対象外)
- メキシコ:対応策を検討中
- EU:WTO提訴を準備
- 日本:二国間交渉を模索
競合他社の対応状況
他の自動車メーカーも、それぞれ異なる形でトランプ関税の影響を受けています。特に、北米市場に依存度の高いメーカーほど、その打撃は深刻です。
📊 業界への影響度合い
高影響:ステランティス、GM、フォード(北米生産・販売比重大)
中影響:トヨタ、ホンダ(現地生産比率高いが本国生産分もあり)
低影響:テスラ(米国内生産中心)、BYD(主に中国市場)
供給チェーンの再編圧力
関税政策により、自動車業界の供給チェーン(サプライチェーン)再編が急務となっています。特に、以下の動きが顕著です。
- 生産拠点の米国回帰:「リショアリング」の加速
- 部品調達先の多様化:「フレンド・ショアリング」の推進
- 在庫戦略の見直し:関税コスト吸収のための効率化
- 価格戦略の再構築:消費者価格への転嫁検討
今後の見通しと投資家の期待
新製品投入による業績回復への期待
厳しい現状の一方で、投資銀行JPモルガンは新製品による業績回復を予想しています。2025年後半に新型ジープ・チェロキーの投入が予定されており、これが北米市場での競争力回復の鍵を握っています。
回復シナリオの要素
- 新型ジープ・チェロキー:2025年後半投入予定
- 電動化ラインナップ拡充:規制対応と市場ニーズへの対応
- 生産効率の改善:工場再編による競争力強化
- ブランド戦略の見直し:14ブランドの最適化
通期業績への懸念と現実的な見通し
上半期の業績悪化を受け、2025年通期の業績についても慎重な見方が必要です。特に以下の要因が下押し圧力となる可能性があります。
💭 筆者の見解
上半期の3960億円赤字という結果を踏まえると、通期での黒字転換は相当困難と予想されます。特に、関税政策の長期化と報復関税の拡大により、下半期も厳しい業績が続く可能性が高いでしょう。新製品投入の効果が表れるまでには時間を要し、2025年通期は赤字決算となる可能性が濃厚です。
長期的な戦略転換の必要性
ステランティスは、短期的な業績回復だけでなく、長期的な事業構造の転換も迫られています。主な課題は以下の通りです。
- 地域別事業の最適化:欧州、北米、南米各市場での戦略見直し
- 電動化への投資配分:EVシフトと収益性のバランス
- ブランドポートフォリオ再編:14ブランドの統廃合検討
- 提携戦略の強化:技術開発コスト分散のためのパートナーシップ拡大
投資家にとっての投資判断材料
投資家の視点から見ると、ステランティスは現在「割安に見えるが高リスク」な銘柄と言えるでしょう。以下のポイントが注目されます。
- 短期的リスク:関税政策継続による業績低迷長期化
- 中期的機会:新製品投入と事業再編による競争力回復
- 長期的潜在力:電動化技術と規模の経済活用
- 配当政策:財務体質改善のための配当削減可能性
✅ まとめ
ステランティスの3960億円赤字は、トランプ関税政策が自動車業界に与える甚大な影響を象徴する出来事です。工場操業停止、売上高13%減という厳しい現実の一方で、新製品投入や事業再編による回復の可能性も残されています。投資家や業界関係者にとっては、短期的な業績悪化と長期的な競争力回復のバランスを見極める重要な局面と言えるでしょう。
それでは!
参考記事リンク
- ステランティス3960億円赤字 欧州自動車大手、関税影響(Yahoo!ニュース)
- ステランティス 上期23億ユーロの赤字に 下期は関税影響拡大見込む(MSN)
- 欧州自動車大手ステランティス、関税措置で赤字転落(ニューズウィーク)
- 米自動車メーカー、生産を一時停止 米関税にカナダは報復(CNN)
- トランプ関税:日米貿易交渉の行方(日本国際問題研究所)
- トランプ政権の相互関税政策が世界経済に与える影響(アジア経済研究所)
- トランプ関税ショックの経済学「関税率24%の謎」(日本経済研究センター)
※本記事の情報は2025年7月22日時点のものです。最新の業績や市況については、各報道機関および企業の公式発表をご確認ください。投資判断は自己責任で行っていただくようお願いいたします。